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橋梁床版補強工事の会計検査の記事を読んで

ケンプラッツのニュースで、【2007年度会計検査報告】床版補強で応力度が限界値を超えても「安全」という記事を読みました。
橋長69.8m、幅員4.7mの渡河橋の床版補強工事に関する会計検査院の報告で、「この工事では、設計ミスと確認不足が重なって橋の安全性が確保されていないと指摘した」というものです。

1969年に設計荷重14tで建設された橋を17tの大型観光バスが走行できるように補強する工事です。問題となった床版は、橋軸直角方向(床版の主鉄筋方向)と橋軸方向(床版の配力鉄筋方向)のうち、主鉄筋方向に対してのみ効果を発揮するように炭素繊維シートを接着して補強を行い、配力鉄筋方向に対しては補強しなかったようです。設計計算書では、この配力鉄筋は、許容応力度140N/mm2に対して、発生応力度を157N/mm2と算定していた、とも書かれています。
そして、会計検査院が示方書に基づく再計算を要請し、応力計算上の安全度が基準を満足していないことがわかり、「会計検査院は、設計のミスを発見できなかったことがこのような事態を招いたと断定。工事を発注した○○県や委託を受けた△△市に対し、成果品に対する検査が不十分だったと指摘した」とのことです。

この記事を読んで、いろいろと思うところがありました。
1つ目は、会計検査院はこの問題の責任を、設計者(建設コンサルタント)ではなく、発注者(○○県と△△市)だと断定したという点です。
こういう問題が起きると、いつも責任はすべて設計者(建設コンサルタント)にいって、設計成果品のチェックを怠った発注者の責任が問われることはない、と思っていました。しかし、この記事では発注者の責任のみを指摘している、という点が興味深かったです。
これに対して、この発注担当者を罰すべきだ、という意見も当然出てくると思います。私も数年前までなら、そう考えていたでしょう。でも、(前にも書いたような気もしますが、)発注者を内部から見ると、ちょっと立ち止まって考えて見ないと・・・と思います。
というのは、橋梁工事のような技術的に高度で責任(影響)も重い仕事は、ほとんどの職員が担当したがらないからです。こうした仕事をしなくても給料は変わらないんです。「その仕事は難しくて私にはできません」と言っても何も不利益を受けることはありませんが、難しい仕事を担当して失敗した者は罰則を受ける可能性がある、という考え方をしている職員はたくさんいます。私は、彼らのほうがずっと問題だと思っています。(難しい仕事を担当して)失敗したものを罰するようになると、益々・・・が増えていくと思うからです。
もちろん、チェックを怠って失敗を犯したものは責められるべきですが、上記のようなことも少し念頭に置きたいと思うのです。

2つ目は、補修・補強の基準についてです。
この記事を読んだだけでは、よくわかりませんが、この記事の書きかただと、「道路橋示方書(以下、道示)に準じていない」ということを指摘しているように聞こえます。
でも、道路法(昭和27年)では、「道路の維持又は修繕に関する技術的基準」は政令で定めるとしているが、この政令がいまだに未制定であることからもわかるように、橋梁の補修・補強という分野は、点検・診断も含めてまだ不完全で、信頼性が不十分な分野です。
だから、私が引っかかるのは、この補強工事において、道示が基準(守らなければならないもの)とまで言えるのか、というところです。たしかに、補修・補強を行う上で、道示が重要な手がかり、アプローチになることは間違いありませんが、新規の建設ではないので、合理的にやらなければとても追いつきません。道示に2方向の照査が載っていたから2方向とも照査しなければならないということは、補修・補強においては言えないと思うのです。
そこが、この分野の難しさであり、面白さだと思います。このあたりは、設計を担当する者と発注者が協議して合意しながら進めていくべきことであり、技術者の腕の見せ所だと思います。
この記事の件に関しては、設計計算書なり、設計報告書なりがどのようにまとめられているのかがわからないのですが、設計者からの説明が足りなかったということはあるのかもしれませんね。

3つ目は、床版(の耐荷力)を14tから17tに補強する、ということについてです。
これは言葉で書くとわかりやすそうですが、「荷重の大きさのみ」で表すということが床版の強さ(壊れ方)の実態をうまくとらえていないので、無理があるんですよね。だから、14tを17tに補強するという設計について、安全度が確保されていない、とかいう議論を真面目にやっているところが可笑しく思いました。
道示における床版の応力度照査方法は、一定の荷重(25t車の車輪の荷重)が床版の中央に載ったときに、静的に発生する断面力(曲げモーメント)に対して、発生応力度を所定の応力度以内にしなさい、というものです。これは、1回大きな荷重が載っても、許容応力度を越えない、ということをチェックしていることになります。
でも、実際に床版がどう壊れるかと言うと、1回大きな荷重がドンと載って壊れるのではなく、荷重が何回も何回も繰り返し載ることで、ひび割れが発生し、それが二方向に進展し、いずれはひび割れが床版厚を貫通して・・・と進行していって壊れることがわかってきています。だから、「荷重の大きさ」という1軸のものさしでは、床版の強さを正しく評価できず、疲労のように、「荷重の大きさ」×「載荷回数」という2軸のものさしが必要になるのです。
こう言うと、誤解を生むかもしれませんが、私は、道示に規定される床版の許容応力度は、上記のような設計モデルと現実の違いで何度も失敗しながら定められてきた、と理解しています。
床版によく使われている鉄筋はSD295というものです。295というのは降伏応力度(単位:N/mm2)です。橋梁に求められる安全率は一般に1.7ですので、許容応力度は295/1.7=173 N/mm2くらいになります。しかし、床版に用いる鉄筋に限っては、許容応力度が140 N/mm2に変更され、現行基準ではさらに120 N/mm2程度に抑えるのがよい、ということになっています。これは、
「普通に173 N/mm2にしたら、床版が長持ちしなかった。そこで、140 N/mm2にしてみた。少し長持ちするようになった。だけど、やっぱり壊れる。じゃあ120N/mm2にしよう」
という感じだと思っています。
この床版補強工事でやりたかったのは、たぶんこういうことだと思うのです。
元々、この床版は「14tの荷重に対して安全」という意味ではないけど、現実には完成から30年も経っているので、老朽化もしてきている。今回は単にひび割れを埋める補修ではなくて、大型バスくらいは通せるように少し強くしておきたい。今よりも2割(17t/14t≒1.2)くらい補強しておこう。
さらに想像を膨らませると、
炭素繊維シートは主鉄筋と配力鉄筋の両方向に貼るのが理想的だけど、お金が2倍かかる。1方向のみに貼るのは無駄ではなく、確実に補強にはなる。幅員4.7mの橋だから交通量だって知れている。あまりお金はかけられない。ここに2層貼るなら、他の橋に1層貼りたい。それに配力鉄筋方向は無補強でも1割しか応力度超過してない。結構強いじゃん。じゃあ、今回は主鉄筋方向だけを補強しておこう。
ということだったかもしれません。

イマジン * 建設分野 * 09:41 * comments(7) * trackbacks(0) * - -

コメント

丁重な説明、有り難うございました。
記事を読んだときのモヤモヤの理由が、晴れていく感覚です。
多視線からの検討を要求する維持管理は、難しいですね。
Comment by u.yan @ 2008/12/04 1:22 PM
始めましてコン太と申します。
 イマジンさんのBlogで幅広い情報をもらっています。
今回の記事のコメント、いや解説なるほどと思うことが多いでした。スキルの高さを感じます。

 この補修・補強に対する道示の適用ですが、基準値の範囲のとらえ方は難しいですね。
この評価には、ある程度の割り切りが必要であり、技術者の判断力の影響は大きいです。
コンクリートの品質試験だけでは評価できない現場の条件もありますし、今後の使用条件を踏まえた維持管理もパラメータとしてあります。

 会計検査では単純に発生応力と許容応力度により照査して「不安定」と判断しているので計算だけの評価としては正しいです。
 実際にはどこまでを安全とするか?が問題ではないでしょうか?(今後、何年の耐久性による安全率の考えの割増等あれば)

コストをかければ安全率は向上しますが、現在の不況の情勢、コスト縮減の観点からも時代に逆行します。
この事例はいろいろ考えさせられますね。今後もこのような問題もあるでしょうが、補修の目的、方針を明確にした設計をしなければいけないと思います。

また、勉強させてください。
Comment by コン太 @ 2008/12/04 6:34 PM
u.yanさん、いつもありがとうございます。
この元記事、インパクトのある見出しをつけて、冒頭から結構大胆なことを書いていますよね。
でも、読んでみるととてもあっさりしていて、結論を言いきっている割には、説得力に欠けるというか・・・ちょっと違うんじゃないって思うところもありませんでしたか。
ブログに書こうと思ったのは、説明しようというつもりはなくて、私自身がこの記事に消化不良を起こしたからです。
会計検査院、発注者、設計者、それに施工者も加えて、誰がどうしたのかをもっと詳しく知りたいと思いました。
Comment by イマジン @ 2008/12/06 2:19 AM
コン太さん、こんにちは。
ヤマトさんがブログで紹介されていた方ですよね。
「補修・補強に対する道示の適用、基準値の範囲」はとても難しいですよね。新規の構造物のように法令あるいは技術基準通りにやればいいというものではありませんから。
維持管理の話は本当に奥が深いです。
例えば、橋梁定期点検は直轄管理だけしか義務付けられていません(自治体管理の橋梁は定期点検が義務でない)が、新規の構造物を造るときに、国も自治体も同じ基準(仕様)でいいの? 点検すらできないことを前提にしといたほうがいいじゃないの? とか、最近いろいろなことを考えさせられます。
この記事の件、記事に書かれている内容だけ読めば、過大設計ではなく、補強にはなっていますので、この工事は無駄なことはしていません。14t→17tというのは、これ自体がこれでいいのか議論が必要な内容ですし、仮にこれでよいとしても、私が書いたとおり元々説明が難しい内容です。古い設計基準で設計された構造物は、現行基準に照らせばすべてOUTです。配力鉄筋は1割応力度超過していたけど、揚げ足取りのようなことを言えば、1.7以上の安全率は確保されていますし、これについては無補強としたので補助金を使っていませんよね。
コン太さんが書かれているとおり、「補修の目的、方針を明確にした設計」という部分がしっかりしていなかっただけなんじゃないかって気もします。
Comment by イマジン @ 2008/12/06 3:00 AM
ヤマト様
おはようございます。
コメントありがとうございます。
コストと安全のトレードオフの関係は難しいですし、それに加えて維持管理、補修補強はまだまだこれからの問題ですね。
また勉強させてください。
もしよかったらリンクさせてもらってもよろしいでしょうか。
よろしくお願いします。
Comment by @ 2008/12/06 7:04 AM
ちょっと、あわてられたようですね。
リンクは歓迎です。
こちらこそよろしくお願いします。
Comment by イマジン @ 2008/12/06 8:12 AM
イマジン様

誠に申し訳ございませんでした。
恥ずかしい限りです。m(_ _)m

心遣いありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
Comment by コン太 @ 2008/12/06 2:34 PM
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